目に見えない命
味噌を仕込んだ。
大豆を蒸し、麹と混ぜて、手で大豆を潰しながら麹とよく混ぜていく。
この単調で繰り返しの作業が心地よい。
静かに、何も考えず、ただ大豆と麹に向き合う時間。
あれから9ヶ月が過ぎ、すっかり忘れていた味噌桶を開けてみる。
味噌の香りと味噌桶の木の香りもした。
この味噌桶の木の香りは、最初の1年目だけだそうだ。
なんとも言えない貴重な瞬間。
仕込んだ時よりもずいぶんと色濃くなった味噌は、ギュッと旨みが詰まっている。
早速、胡桃につけて食べてみた。
お酒のアテ、おにぎりの具にもちょうどいい。
お味噌汁も作ってみる。
しっかり取れていない出汁でも、この味噌だと不思議と美味しく感じる。
父に味噌を仕込んだ話をしたら、父の母も昔、味噌や醤油を当たり前のように作っていたそうだ。
特に麹菌をうまく働かせて発酵させるための温度管理が大変だったと聞いた。
祖母は大変だったかもしれないけれど、きっと今のお醤油や味噌よりは美味しいはずだ。
この味噌やお醤油を美味しくするもの、それは麹菌
この麹菌は日本の国菌と言われ、日本の食生活にはなくてはならないものだ。
麹は単なる食材ではなくて、昔祖母がしていたように麹は『育てる』存在としてまるで生き物のように日本人は扱ってきた。
麹を育てる手間暇、そして作る人の想いが麹にも伝わっているように思えてならない。
微生物と共に暮らすことは、目に見えない命を信じて育むこと。
麹とともにある暮らしは、まさに自然と調和する精神そのものだと思う。